YouTuberが地上波を席巻する時代が来るのか――フジテレビが5人組YouTuber・コムドットを「ゴールデンウィークアンバサダー」に起用したことに注目が集まっている。人気YouTuberといってもテレビ視聴につながるかは未知数。それでもフジテレビが彼らを起用した狙いについてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
【写真】800万回以上再生された「撮影中にヤンキーが絡んできて大喧嘩になりました」の1シーン他
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まさに異例の抜てきでしょう。5人組YouTuber・コムドットが「フジテレビ系 ゴールデンウィークアンバサダー」に就任し、29日から出演がはじまっています。
コムドットは4月29日~5月7日のゴールデンウィーク期間に放送されるさまざまなジャンルの番組に出演。5月1日に『ネプリーグ』、5月1日~4日に4夜連続企画『コムドットのテレビって何?』、5月5日に5つの生放送番組『めざましテレビ』『めざまし8』『ノンストップ』『ぽかぽか』『Live News イット!』で電波ジャックし、さらに冠番組『コムドットって何?』の70分スペシャルも放送されます。
特筆すべきは期間中、フジテレビ全体の番宣CMに出演すること。基本的に各番組のMCや主演俳優か、同局の看板アナウンサーなどの知名度がある人がキャスティングされるだけに、YouTuberの起用に驚かされます。
しかもコムドットは昨年4月に『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ系)で地上波初出演したばかりで、わずか1年しか過ぎていません。テレビ出演の少ないネット上の人気者が、なぜ「局の顔」という大役に抜てきされたのでしょうか。
懸念材料はテレビ視聴者のアレルギー
コムドットのYouTubeのチャンネル登録者数は410万人強ですが、その人々がネット動画ではなくテレビ番組を見るかは未知数であり、視聴率につながる“リアルタイム視聴”となると、そのハードルはグッと上がります。実際、これまでもHIKAKINさんやフィッシャーズなどのYouTuberを起用した番組は多かったものの、タレントを上回るような成果は得られませんでした。
もともと、テレビの出演者は老若男女からの知名度や「嫌われていないこと」が求められる一方、YouTuberはファンを楽しませることが求められるなど、ニーズとしては真逆。そのため、「YouTuberは幅広い年齢層から視聴率を得なければいけないゴールデンタイムではなく、配信数狙いの深夜ならファンのリピート再生が期待できる」などと言われていました。
また、懸念材料とされてきたのが、テレビ視聴者の“YouTuberアレルギー”。これまではYouTuberがテレビ出演すると必ずと言っていいほど、「素人がまぎれ込んでいる」「つまらなくてチャンネルを変えた」などの拒否反応がネット上に書き込まれました。
コムドットのアンバサダー起用が発表されたときもニュースのコメント欄には、「この手のYouTuberは地上波では見てられない…」「こいつら見たいやつはYouTube見ろよ。普通に生活してて目にする様な所に出てくんな」「YouTuberとタレントは区別して考えた方がよくないかな?きちんと事務所に所属してある程度教育を受けている(であろう)と目立ちだがり屋の一般人を同列に扱うのはおかしい」などの辛らつなコメントが大半を占めました。なかには「GWはフジテレビ絶対見ない」と言い切る人も少なくないのです。
ゴールデンウィーク期間中だけでなく、アンチを増やすリスクがあるにもかかわらず、なぜフジテレビはコムドットを起用するのでしょうか。
男性アイドルグループと同等の熱気
彼らを起用するのは、「若年層に爆発的な人気を誇るから」であり、さらに「コムドットならYouTuberとテレビタレントの境界線を越えられるかもしれない」という期待感があるからでしょう。彼らの人気ぶりは男性アイドルグループと似ているところがあり、今春にレギュラー放送がスタートした冠番組『コムドットって何?』にも、それが表れています。
まず10日放送の初回では、「説明書作り」と題してプロフィールを作成。メンバーカラー、好きな食べ物や女性のタイプ、ハマっていることなどを答え、撮影をこなす様子はアイドルグループのようでした。
続く17日放送の2回目では、5000人限定の「説明書お渡し会」を開催。行列を作ったファンとふれ合う様子はアイドルグループの握手会同様であり、感極まって涙を流すファンがいたほか、緊急募集にもかかわらず2万人もの応募があったことが明かされました。24日放送の3回目では、番宣CM撮影のために栃木県の高校にサプライズ訪問。高校生たちが歓喜の声をあげて盛り上がる様子は、やはりアイドルグループに近いものがありました。
メディアから見たコムドットは、「多くの熱烈なファンがいる20代中盤の男性アイドルグループ」であり、ファンの数も熱気も同等レベルと見られているようなのです。ただこれは裏を返せば、「ファン以外から好かれることが難しい」という課題も同じ。しかも、「YouTuberがファン以外から好かれるのはアイドルグループ以上に難しい」と言われる中、「コムドットならそれを乗り越えられるかもしれない」と期待されているのでしょう。
テレビマンたちが企画書を作りやすい
YouTuberのテレビ番組起用に関して最後にもう1つ挙げておきたいのは、企画書の書きやすさ。YouTubeのチャンネル登録者数や再生回数、SNSのフォロワー数などの具体的な数字をあげられるため、「この層の視聴者をこれくらい連れてこられるのでは」という前提で企画書を書きやすいところがあります。
さらにスポンサーが最も求めるコア層(13~49歳)への訴求や、イベントにおけるファンの熱狂などを書き添えることも可能。テレビマンたちも企画書を作り、会議に通さなければいけないため、コムドットのような存在はリスクがあっても魅力的なのです。昨年、フジテレビのバラエティけん引してきた港浩一社長が就任して以降の同局は、「まずやってみたら」という作り手たちを後押しするようなムードがあるため、今回の抜てきも実現しやすかったのではないでしょうか。
先月、あるバラエティのディレクターと話していたとき、コムドットの話題が出ました。
コムドットの魅力として意見が一致したのは、「ポンポンとコメントが飛び交う同級生ならではの連携」と「“革命”を公言するなど野心を隠そうとしないこと」の2つ。これは男性グループアイドルができそうで、なかなかできないことだけに、今回のアンバサダー抜てきでどこまで今後につながる知名度と好感度を得られるのか。少なくとも業界内の注目を集めることは間違いないでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。
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