「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第81回を紐解いていく。
藤丸、復活
第17週「ムジナモ」(演出:渡辺哲也)は、園子の誕生の喜びからはじまります。生まれた園子に、万太郎(神木隆之介)は夢中。植物画を描くように、園子の身体のパーツを細密にスケッチ。それを、牛鍋屋で、藤丸(前原瑞樹)と波多野(前原滉)に披露して大いに盛り上がります。
波多野はちょうど受粉の研究を推し進めているところですから、受粉して生まれる生き物の神秘に興味津々。
藤丸が「ふたりとも赤ちゃんと植物を並べて語るのやめようよ」とツッコミます。
パーツは描けても、人の顔がなぜか描けないという万太郎。そういえば、竹雄(志尊淳)の似顔絵が独特過ぎました。
すっかり、藤丸が元気になりました。
植物採集で出会った「変形菌」というものを調べる気になり、大学に戻ることにします。うさぎもいるし、と。
元気になった藤丸は、採集で植物を見つけたとき、平然と「確かにあれは血で血を洗う争いだった」と波多野に語ります。先週、あんなに、奪い合いをいやがっていたのに、この差。
調子いいなあとも思いますが、といって、あのままずーっと陰鬱な気持ちを抱え続けたら心が壊れてしまうでしょうから、留まれてよかったなあと思います。
案外、人間ってそういうものだという気もします。矛盾を抱えているし、良くも悪くもちょっとしたことで気持ちが変わるもの。
そして、藤丸は、万太郎の植物採集の才能は「ただ愛したいだけなんだ」からと言います。教授(要潤)や伊藤家の孫(落合モトキ)のように実績や家の名誉のために植物の新種を探していないと。
「ただ愛したいだけ」ーーこれが大事。
万太郎にとって、子供でも植物でも、愛するに値するものであれば、観察して愛でるのです。
ただ、教授も伊藤家の孫も、最初はただ植物が好きだったのだろうと思います。教授のシダへの愛情や、孫・孝光がおじいちゃんの膝の上で植物学の本を読んでいた思い出などは邪な気持ちはいっさいなかったことでしょう。それがいつの間にか、欲望にすり替わっていく。その変化が要注意です。
万太郎といいコンビになっている藤丸を、ちょっと距離をもって見ている波多野のまなざし。彼もまた、野宮(亀田佳明)という相棒を見つけたし、助教授になって、新たな道を歩むのでしょう。仲が悪くなって別れたわけではなく、こうやって楽しく牛鍋をつつけるようになったことを喜びたいです。
さて、藤丸が嫌悪した田邊教授です。聡子(中田青渚)に「旦那様ほどご立派なお方はいらっしゃいません」と言われ、気をよくして、彼女を相手に晩酌をしている時間は唯一の癒やしのひとときのようです。シダの庭のようにしっとりしています。
お酒を飲んでみるかと勧められて、飲んだときの聡子の「なんですこれ」「香りがすごい」と驚く声が、いつもの声とちょっと違っていて、本音が出た感じで良かったです。中田さんの名演技。
(文:木俣冬)
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