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きらら史に残るラスボス「日常系部活ものに呪われた卒業生」が生まれた理由 『ステラのまほう』完結記念くろば・Uインタビュー(1/2 ページ) - - ねとらぼ

 今の自分にしかできないことを探していた女の子が、SNS部(死んだ魚の目 日照不足 シャトルラン部)の仲間たちと同人ゲーム制作に励む『ステラのまほう』。2016年にはTVアニメ化もされた「まんがタイムきららMAX」の人気作品が、12月25日発売の単行本10巻でフィナーレを迎えました。

 いわゆる「部活もの」と呼ばれるジャンルの本作において、「今の自分にしかできないことを探していた女の子」は、主人公の本田珠輝以外にもうひとり登場します。それがSNS部の設立者であり、ラスボス的存在であったOG・百武照(※)。彼女の存在は、きらら史に残るといっても過言ではないインパクトを読者に残しました。

全ての元凶にふさわしいポーズをする照先輩

※百武照:SNS部の設立者にして初代部長。「なんでもできるテルさん」を自称しているが、それは「本気で打ち込めるものがない」「他人を信じられない」ことの裏返しでもあった。

 本当にやりたいことが見つからず、刹那的な学生生活を送っていた照先輩は、高校3年の秋にちょっとした思い付きからSNS部を立ち上げます。全力でゲーム制作に取り組んだ高校最後の半年間は、彼女の人生で最も充実した時間でした。それはまさしく日常系部活漫画の主人公のような日々だったに違いありません。照先輩は笑顔で卒業を迎え、そして後には微妙な関係性の後輩だけが残されることに――。そんな状態の部活に珠輝(※)が入部したところから本作は始まります。

※本田珠輝:高校1年生(7巻から2年生)でイラスト担当。何事にも明るく前向きに取り組む本作の主人公。かわいい見た目に反して押しが強く、「攻めキャラ」と評されることも。

 この物語はひとりの少女が新しい部活を作り、青春を謳歌したあとの世界を描いた、「日常系部活ものが終わったあとの物語」でもあったのではないでしょうか。そして、青春の思い出に心を囚われた照先輩は、ラスボスとして再び後輩たちの前に姿を現すのです。

 女の子たちの輝かしい日常を届けてきたきらら作品の中でも独自の世界観を確立していた『ステラのまほう』を、作者のくろば・U先生はどのような想いで描いていたのか? 最終回直前に実施したインタビューで、9年間の連載を振り返っていただきました。

イベント前日の修羅場を描いたときに作品の方向性が決まった

――連載おつかれさまでした。まずは『ステラのまほう』が始まるまでの経緯をあらためて教えていただけますか?

くろば・U:これからどうやって生きていこうかふわふわしていた時期にきららからオファーがきた、というところまでは一昨年の対談で話した通りです。そのあと、どんな作品を描くか打ち合わせをしたとき、担当の瀬古口さんに「同人ゲーム制作をしていた経験をマンガにしてみては?」と案をいただきました。

瀬古口:アマチュアの人たちがどうやってゲームを作るのか個人的にも興味がありましたし、そこに当時のきららの主流だった「女子高生もの」「部活もの」を組み合わせた感じでしたよね。

くろば・U:『ステラのまほう』が始まった2012年は、今ほどインディーゲーム界隈が活発化する前で、まして小学生がみんな「マインクラフト」をプレイしているような時代でもありませんでした。だけど、ちょうどそのころSteamも徐々に認知されるようになってきて、将来的には少人数制作のゲームが盛り上がっていきそうな予感があったのも、同人ゲームを題材にしようと思った理由のひとつです。

――7巻あたりから、扉絵でインディーゲームのパロディをすることが増えましたよね。特に「Outer Wilds」の回は、「きらら作品で!?」とコアなゲームファンの間で話題になっていたと聞きます。

くろば・U:いやほんと、「Outer Wilds」はまじで神ゲーなんで! 瀬古口さんにも布教済みです。約20分後に滅亡する世界で、ループを繰り返しながら宇宙を旅して謎の手掛かりを集めていくゲームなんですけど、最初から最後までワクワ

クさせられっぱなしでした。

Outer Wildsはいいぞ

――『ステラのまほう』では、創作活動の苦しみや、部員同士の衝突なども正面から描かれていて、一般的な「きらら」のイメージとは懸け離れている気もします。瀬古口さんから見て、この作品がMAXに掲載されていた意義は何だと思いますか?

瀬古口:MAXは、きららの雑誌の中でも個性的な作品が多く集まっていて、特に創刊から『かなめも』がアニメ化した2009年ごろまではその傾向が強かったと思います。だけど2010年代に入り、『きんいろモザイク』『ご注文はうさぎですか?』がヒットして、「やっぱりMAXでも明るくてかわいい日常4コマじゃないと読者に受けないんじゃないか」という空気が出始めたときがありました。

――まさにそうした時期に『ステラのまほう』がスタートしたわけですね。

瀬古口:ある意味「きららっぽさ」とは対極にある作風なんですけど、そうした作品がちゃんと読者に支持されてアニメ化もされたことは、きららにおけるMAXの独自性、ひいてはきらら全体の多様性を担保する意味でも重要だったんじゃないかなと。間違いなく、2010年代のMAXに欠かせないピースだったと考えています。

――MAXには無印やキャラットに比べても尖った作品が多いと思いますが、『ステラのまほう』というお手本があるからこそ、他の作家さんも様々な作風にチャレンジしやすかったのかもしれません。

くろば・U:瀬古口さんからも「きららっぽくしようとかは考えなくていい」と言われていたので、のびのび描かせていただきました。どれだけ寄せようとしても、自分の引き出しにないものは描けませんし。

瀬古口:でも、1巻の途中までは結構きららっぽかったと思いますよ。

くろば・U:そうですか?(笑) 確かに、主人公が新しい世界に飛び込んで目を輝かせて、という始まり方はわりとオーソドックスかも。1巻の終盤、イベント前日に歌夜ちゃん(※)と連絡が取れなくなる展開を描いたときに、この作品の方向性が決まった気がします。

イベント前日の修羅場。連絡が取れない歌夜が逃げ出したと決めてかかる先輩たちに、珠輝は違和感を覚える

※藤川歌夜:高校2年生(7巻から3年生)でサウンド担当。DTM部と兼部している。爽やか系天然たらしだが創作には誰よりも真剣で、手を抜くことや人気目的で作ることを嫌う。

――あのシーン、最初に読んだとき実は違和感がありました。上級生3人は前年から一緒にゲーム制作をしていたのに、ちょっと連絡がつかなくなっただけで諦めるものなのかなと……。

くろば・U:前年からといっても、実際は秋からの半年間ですし、あの時点で椎奈・あやめ(※)の幼馴染コンビと歌夜はそれほど親密じゃないという距離感は意識して描いていました。あやめはもう少し心配するかもしれないけど、椎奈は歌夜がふらっとSNS部からいなくなってもたぶん追いかけたりしないだろうなと。

※村上椎奈:高校2年生(7巻から3年生)でプログラム担当。SNS部の2代目部長。引っ込み思案な性格で人付き合いも苦手だが、照先輩から受け継いだ部を守るためがんばっている。

※関あやめ:高校2年生(7巻から3年生)でシナリオ担当。人当たりがよく、SNS部のムードメーカー的な存在。文章を書くときは「Iri§」(アイリス)という別人格に変身する。

――照先輩がいたからこそまとまっていたというか。

くろば・U:その意味では、3巻で描いた文化祭前の追い込み回もターニングポイントでした。進捗が遅れている歌夜に椎奈が「締切も守れない人がプロになれるのか」とわざと刺さる言い方をして、歌夜も「絵を描くことを諦めた人に言われたくない」って言い返して、初めて本音をぶつけあう。SNS部の設立から1年が経ち、あそこで2年生メンバーもようやく本当の仲間になったんでしょうね。

お互いの弱点を的確に突き合う椎奈と歌夜

新しく創作を始めるきっかけになればうれしい

――そうした描写が生まれた背景を知るために、くろば先生がどのようにゲーム制作と関わってきたのか伺いたいです。

くろば・U:本格的にゲームを作り始めたのは、中学生になって自分のPCを買ってもらってからです。ゲームといっても既存のゲームエンジンを使ったシンプルなものですけど、自分で描いたドット絵をプログラムで動かせること自体が楽しくて、ネットで公開するわけでもなく黙々と作り続けていました。

 そうこうしているうちに大学に入り、最初は漫研に所属していたのですが、後年になって同年代の学生たちが新しく同人ゲームサークルを立ち上げたというウワサを耳にしたんです。今までずっとひとりで作っていたけど、みんなで協力して他の人に遊んでもらえるようなゲームを作るのも面白そうだなと思い、漫研と掛け持ちする形でそのゲームサークルにも顔を出すようになりました。

――作中のコラムで「同人ゲームサークルの7割以上は1作品も出さないまま解散する」という話がありましたが、ゲーム制作はやはり難しいものなんでしょうか。

くろば・U:技術的に難しいというより、「すごいゲームが作りたい!」という熱意が強すぎた結果エタる(未完成のまま終わる)パターンが多いんじゃないかなと。大学のサークルで最初に作ろうとしていたゲームがまさにそれで、体験版までは出したものの、結局完成しないままお蔵入りになってしまいました。作中で椎奈も言っていたように、規模は小さくても最後まで完成させることが同人ゲーム制作では一番大事だと思います。

未完成のゲームは誰にも遊んでもらえない

――そのゲームサークルは今も存続しているんですか?

くろば・U:はい。というのも、最初に作っていたゲームがエタった数カ月後に、ひとりの天才が入ってきたんです。彼の書いたシナリオがめちゃくちゃ面白くてボリュームもちょうどよくて、「じゃあこのシナリオに絵とか音楽をつけよう」という話が起こり、無事に第1作をリリースすることができました。その流れがなければ、活動方針が定まらないままサークルは自然消滅していたでしょうね。

瀬古口:今の話、『ステラのまほう』に似ている気がしますね。SNS部の創立過程も照先輩があやめの書く物語にほれ込んで、一緒にゲームを作ろうって言い出したのがきっかけでしたし。核になるようなものを投げかけてくれる人材が1人いると、集団制作はうまくいきやすいのかもしれません。

――くろば先生は今もゲームを作り続けていますが、どんなときにやりがいを感じますか?

くろば・U:自分の意図した通りにキャラクターを動かせた瞬間ですね。子どものころ初めてゲームを作ったとき、「左に移動する」というプログラムを書けば実際にキャラクターが左に動くという、当たり前のことにすごく感動した思い出があって。画面上で絵が動けばゲームが7割ぐらい完成というネタは、冗談ではなく僕の素直な気持ちです。

ゲーム制作にとって偉大な飛躍

くろば・U:今はもう少し複雑なゲームも作れるようになりましたが、用意した罠やミスリードを誘うシナリオにまんまと引っ掛かってくれたり、プレイヤーの感情もこちらの思い通りに動かせたときはうれしくなります。

――単行本9巻では、珠輝がついにゲームプログラミングにも挑戦します。絵も描いてプログラムも書くという点ではくろば先生も同じですが、珠輝に自身を重ねている部分はあるんでしょうか。

くろば・U:首を突っ込みたがりなところは確かに似ているかもしれません。だけど自分自身を投影しているつもりは無くて。誰かの笑顔を無条件に信じられる純粋さは自分にはないし、父親のことが好きかと聞かれると別に……(笑)。

――反対に、自分に似ていると思うキャラクターは?

くろば・U:断然で歌夜ですね! ストイック、というと自画自賛になりますが、作品が評価されるのはあくまで結果であって、創作そのものは自分を満足させるためにやりたい部分とか。あと、締切に遅れがちでせっつかれているところも親近感が湧きます。僕も瀬古口さんに「原稿まだですか?」っていつも言われていたので。

後輩に圧をかけがちな歌夜

瀬古口:だけどくろば先生、9年間で一度も原稿落とさなかったですよね。先月号の休載は、最終巻が出る今月のMAXで表紙を飾るためにわざとひと月飛ばしたからですし。多少締切を超えることはあっても、最終的には必ずクオリティーの高いものを納品してくれる点も、藤川さん(歌夜)に似ていると思います。

――題材が題材だけに、『ステラのまほう』の読者には、自分でも創作をしている方も多いですよね。

くろば・U:「『ステラのまほう』を読んで自分もゲームを作るようになった」と言っていただいたこともあって、本当に作者冥利に尽きます。ゲームじゃなくてイラストでも小説でも構わないので、この作品が新しく創作を始めるきっかけになればうれしいですね。ゼロから何かを生みだすのは、どちらかといえばつらいことのほうが多いんですけど、だからといって消費するだけの時間を送るのはもったいないと思うんです。

※次ページ以降は単行本10巻の内容に触れています。

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