米倉涼子さんが今年、再び渡米します。2人の悪女によるスキャンダラスなシンデレラ・ストーリー『CHICAGO(シカゴ)』が、ニューヨークのブロードウェイで25年のロングランを迎え、4度目の主演に抜擢されたからです。これは、日本人女優として史上初。『CHICAGO』、そして『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)が共に10周年となる今年、米倉さんの思いが炸裂します。
—4度目の『CHICAGO』が決まった際、どう思いましたか?
まず、「やれるか、どうか」という問いかけを自分にしました。私の場合、ずっとダンサーをやっているわけではないので、毎回イチからやり直しになるんです。ドラマに打ち込んでいるシーズンは運動がほとんどできないので、体がダンサー・アスリートにはなっていません。
33歳で『CHICAGO』に挑戦した時は、体も動いたし日本語上演版だったから、状況が違います。今回は、ブロードウェイに立ち続けている皆と同じように自分もできるのか、ということを考えないといけないんです。
—これまでと今回、違いは何でしょう。
これまでは、体的なことより、「やりたい」という思いや「やってやる!」という熱意で挑戦してきました。今は、コミュニケーションを取れるようになって友達も増えたし、私を仲間だと認識してくれているので、あの場所に行くことは怖くなくなったんです。
ただ、私は前回の『CHICAGO』の直前、「低髄液圧症候群」を発症してしまい…。髄液が漏れないような処置をしてからニューヨークに行ったんです。現地では、壁を伝うようにそっと歩いてスタジオへ向かい練習していました。
スポットライトが当たると、どこが前だか分からなくなってしまう症状があって。光が線になってつながってしまうんです。もしかしたら作品に出られないかも、ということも考えながら、とにかく「出たい」という気力でやりきったので、その分、思いも深いです。
よかったのは、アメリカでは「絶対にやれ」と言われないこと。やれる時にやればいい、休みたかったら休めばいい、と。実際、「風邪をひいた」「喉が痛い」「腰が痛い」という理由で、毎日のようにメンバーが代わりました。
もし、初回の2012年がこのような状態だったら、私は倒れていたかもしれないですけど、「絶対にやれ」と言わないアメリカの感覚が、当時の私にとっては安定剤でした。私の代わりはたくさんいるので、本当にダメだった場合は、自分でお金を払ってでもやめる、という気持ちで挑んでいました。
とにかく、(自身の病気は)衝撃を与えることがよくないので、転ばないこと、ぶつからないことなど、日々の生活に気をつけて作品に臨みたいです。
—米倉さんにとって、ブロードウェイはどんな場所ですか?
自信につながる半面、自信がどんどんなくなる場所です。ブロードウェイで活躍する面々は舞台に立ち続けて進化しているのに、私は未だに慣れていない。
初めのうちは、どの人が衣装を担当してくれて、どの人がプロデューサーで、どの人が舞台監督で、どこに私の居場所があって、どの人が私に優しくしてくれるのか、というのを探すのが大変でした。今は、この人は仲良くなれる、この人は多分ダメ…などが分かってきました。
普段は、日本人が参加していない、外国のメンバーだけのインスタグラムでコンタクトを取っています。
一番の友達は、変わらず、ヴェルマを演じているアムラ=フェイ・ライトさん。日本公演に出演したメンバーがブロードウェイに立ったりすると、「やったね」という話で盛り上がります。そういう人たちとまた会えると絆が生まれますし、私が英語で会話をするのが大変なことも分かってくれているから、すごく寄り添ってくれます。逆に私は、日本にいる時は皆をかわいがります(笑)。
—『CHICAGO』という作品、ロキシー・ハートという役の魅力をどう感じていますか?
私はロキシー・ハートが好きです。なぜかと言うと、彼女は最初からトップではないから。ロキシーは、何かをつなげていくために、すごく気が回るんです。自分のためになるなら何でも使ってやる、という彼女の思いが、生きる強さがあっておもしろいと思います。
私は『ドクターX…』で、大門未知子という正義の味方みたいな役をやっていますけど、悪役も好きなんです(笑)。
外見は、ロキシーよりもヴェルマの方がカッコいいんです。私が最初に『CHICAGO』で目を奪われたのは、しょっぱなにヴェルマが登壇した際の姿と音楽なんです。でも、私は“そこ”には立てないと思いました。最初に出て行きたくない、何か嫌だなと(笑)。ロキシーは、途中から登場して奪っていくから楽しいんです。
私も、ロキシー同様“隣の芝が青く見えるタイプ”です。ロキシーみたいに「あの人の場所を奪ってやりたい」とか「私にもっと注目して」とは普段思いませんが、「頑張ってどうにかして生きてやる」という思いは同じです。
私はあまり人に甘えたり、頼るタイプじゃないんです…いや、頼ってるかな。あらゆるパスワードも全部人に頼ってました(笑)。
—米倉さんのロキシーには、のし上がっていきながらも、チャーミングさがあると思います。
自分の中で、最初はチャーミングにと作っていたんですけど、やり始めて10年経っているので、それも少し削っていきながら、大人のロキシーができたらいいなと思います。この役は、私の女優人生の中で、切っても切り離せない役です。一番誇りに思っている役かもしれない。
—ブロードウェイデビュー10周年。成長した部分は?
最初はワケも分からず、台詞が言えるか…振りを忘れないか…でいっぱいで、皆のことまで巻き込んで緊張させてしまっていたそうなんです。「リョウコは大丈夫なのか」と、初日は大分疲れさせたみたいです(笑)。
少しずつ言葉を楽しむこともできるようになって、皆でその日の会話&動きをセッションする時間も楽しくなりました。ただ、調子に乗ると間違えるので、気を抜かずに楽しめる時間が増えてきたらいいなと思います。
—コロナ禍でブロードウェイが長く閉鎖されました(2020年3月~2021年11月)。今回再開した中で演じることを、どう受け止めていますか。
劇場再開のお披露目をしている映像を皆が送ってくれて、本当に嬉しそうで、私も日本で一緒に喜びました。ただ、新型コロナウイルスに感染したダンサーや友達もいるので、まだ気をつけなくてはいけないと思います。
ブロードウェイの舞台裏は、日本の劇場と違ってホコリだらけなんです。清潔さを保つのが難しい文化と言いますか、皆、靴のままですし、そこは仕方がないと思います。だから自分の身は自分で守るしかない。
私が渡米する頃(11月)には、落ち着いてたくさんの方が鑑賞できるようになっていたらいいと思います。(『ドクターX…』の)蜂須賀先生(野村萬斎)の言うように、「石けんとマスク」が大事ですね。
—日本人女優として、これからも記録を更新していきたいですか?
全然分からないです。今回『CHICAGO』は25周年記念、アメリカ作品歴代1位のロングランです。そんな作品に関われていることを誇りに思いますし、ロングランだからこそ、いつまで続くか分からないので機会を逃したくないという思いはあります。『CHICAGO』は私の中では不滅です。ですが、まずは4回目に挑戦するということを大切にしたいです。
—2022年はどんな年にしたいですか?
私の中では、好奇心が消えたら終わりだと思っています。個人事務所「Desafio(デサフィオ)」の名前のとおり、「挑戦する」ということを大事にしたいと思っています。
そして、主演するNetflixオリジナルシリーズ『新聞記者』は、初めての配信系ドラマですし、引き続き2022年も新しい挑戦をしたいと思っています。
—プライベートで成し遂げたいことはありますか?占いでは「2022年までに結婚するといい」と言われていましたね。
本当ですよね(笑)。でも、ワンちゃんを迎えまして、すっかり“親”になっちゃいました。なので、その子が病気もなく丈夫に育ってくれるのが、私の中で一番大切なことです。あとは寝ること。とりあえずは、安全安牌に終わってほしい!
【インタビュー後記】
自らが発光しているような華やかなオーラで、やる気に満ちあふれていました。『CHICAGO』へは、並々ならぬ思いを持っている米倉さんですが、その気持ちは衰えることなく、年々強くなっているように感じます。人気ドラマ『ドクターX…』も、ブロードウェイでの『シカゴ』も、主演を務めて今年でちょうど10年。どちらも長く続いている人気作品です。こんなにも情熱を捧げる作品に出合えた米倉さんは、きっと最高に幸せだと思います。
■米倉涼子(よねくら・りょうこ)
1975年8月1日生まれ、神奈川県出身。1992年「第6回全日本国民的美少女コンテスト」審査員特別賞受賞。CM・ファッション誌専属など、トップモデルとして活躍。1999年「女優宣言お披露目デビュー発表会」を行い、2000年にモデルから女優へ。2012年『ドクターX~外科医・大門美智子~』がスタート。ミュージカル『CHICAGO』主役のロキシー・ハート役でブロードウェイデビュー。2022年11月、4度目の主演となる『CHICAGO』ブロードウェイ公演が、アンバサダー劇場(ニューヨーク)にて。同12月、アメリカ・カンパニー来日公演が東京国際フォーラム ホールC(東京・有楽町)にて上演される。主演を務めるNetflixオリジナルシリーズ『新聞記者』は1/13~全世界同時配信。
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